国家の品格

 数学者、藤原正彦の「国家の品格」を読む。胸のすく日本人論。明快であり、すぐに読めた。
 日本の良さを見直そうと鼓舞する内容で、たいへん反響のあった本。長く続いた不況や治安の悪化、福祉や少子化への不安など、日本人が自信を失いかけていたときに良いタイミングで出たという側面もあるだろう。もっとも、この本がたいへんに売れていること自体が、日本の底力を示しているように思う。
 歯に衣着せぬ物言いで、やや先鋭に過ぎる論調ではあるが、納得できる部分も多い。
 教育についても、様々な具体例があげられているが、特に数学の天才が出る風土については、たいへん興味深かった。日本の教育にとって何が重要であるのかを大局から考えるきっかけを与えてくれた。

国家の品格 (新潮新書) [ 藤原 正彦 ]

線形代数とその応用

 「抽象的になるということは、事柄によらず正しいと考えられているが、あまりにもそれを強調すれば真理ではなくなると思われる。」

 線形代数について、このように語るとすっと入ってくるのかと、目を開かされた本である。ガウスの消去法から始まり、線形空間に話が進んで行く。応用例もはさみこみながら、線形代数の本質が読者に伝わる構成になっている。
 この本には、現代数学社の雑誌に連載をするときに、じっくりと向き合った。そのため、開くたびに思いがこみ上げてくる。数学の伝え方と線形代数の奥深さを教えてくれた恩書である。
 高校数学では、行列が数学の教育課程からなくなり、ベクトルも隅に押しやられている感がある。しかし、発展しつつあるネットワークや人工知能線形代数がなければ記述しえない。日常使っている表計算ソフトは行列のひとつの具体化であり、処理は当然線形代数がベースになっている。データを論拠に語る姿勢を培うためにも、線形代数の素養は不可欠であろう。理科を学ぶ上でもベクトルの知識があったほうがシンプルで分かりやすく捉えることができ、発展性もあるのではないか。
 ベクトルや行列の計算に早くから触れさせない教育課程は、日本の国力低下につながるのではと危惧を覚えずにはいられない。
 数学、とりわけ線形代数の重要性は、日々増している。数学教育の方向を考える上でも本書はたいへん示唆に富む。
 数学への思いを新たにさせてくれる、自らにとっては極めて重要な本。開くたびに影響を与えてくれる本を名著とよぶならば、まさしく数学における名著である。